<プロデューサーのブログより>映画論その3 映画はカメラを操作する人間の内面こそが、物語として現れてくる

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能勢監督と話したこの映画についての基本方針は、この映画は映像で見せていく、ということです。

そして人間を含めてすべての対象を同じ机上で、相対化するということです。
※平たく言うと人間も風景も絵も音楽も、すべてを並列に扱うということです。

しかし実のところ、それを実際の映像として具体化するにはどうしたらいいのだろうか、と私にはわかりませんでした。なぜなら、人間を撮れば当然人間の生々しさが匂ってきますからね。それを能勢監督はどうするのかな~……と。

ところが能勢監督から「人間は点景として撮ります」という答えを聴いて目からウロコです。つまり、人間も特別なものとはせず、自然の一部として撮るということです.
さらに、現実の映像が、ガラス絵との相関関係をとることで、映像が、さらに余計なものをそぎ落としていきます。

それは、児玉さんの絵の中に語られていることと、現実空間とを、等価でリンクさせることにより、児玉さんの絵も最も伝えたかった民衆への愛情のまなざしがそのまま素朴に現実空間へとリンクして透過されてゆくことで、観客の中の集中もそこへと収斂していきますから、人間の自我が持つよけいな雑念がそぎ落とされていきます。

さらにもうひとつ目からウロコは、時間軸の壮大さを象徴するよような在るシーンのイメージをお聞きして、私は小躍りしたのです。

そのイメージについては映画本編のネタばれになりますから,ここでは書きません……すみません。

まあ、不思議な一致とでもいいましょうか、能勢さんの頭の中と、私の頭の中で奇妙に通じていたのが、ある種、研ぎすまされた感性と思念です。

それは、感情に溺れず、純度の高いものをめざし、通俗性に甘んじないという映像への信頼です。そしてそれは観客への信頼でもあります。つまり映像を見ればわかるという映像への信頼です。だからこそ映像の真価が問われます。

能勢監督と私の中で一致したのは,通俗を超えて作品を作りたいというこころざしです。人間だけが特別ではない。起きてきたこと、すべてのもの、すべてのことが並列であり、等価であるという、視点です。
まさにそれはカメラの持つ原則的な視点であり、人間も風景も自然も、そしてこの世に起こりうるありとあらゆる現象を感情ではなく理性と理知の目で撮る、という視線ですね。

カメラの目はいつも同じです。いつも理性体として被写体を写します。理性体として、感情の温度のないカメラの目は、理性体だからこそ、人間の自我や感情を超越した世界を映し出すことが出来るのです。

そしてその時問われるのは、カメラを操作する人間の内面です。

ここはほんとうに勘違いをしている人がいっぱいいますが、カメラで撮ったの映像で物語を作り出すのではなく。カメラを操作する人間の内面こそが、物語として現れてくるのです。もう恐ろしいほどそれがカメラをとおして表出してくるのです。

映画は作り手の側が、どんな世界観や人間観や自然観をもっいるかが問われるのです。それは恐ろしいほど映像画面に露出してくるのです。

もし作り手側の自我が汚れたり、くすんでいたりまた、よこしまなものをもっていると、それはそのままカメラをとおして、見る側につたえられます。恐ろしいね~!

そして能勢さんと私にさらに拍車をかけたのが、私が先生と尊称でお呼びしている篠田カメラマンの参加でした。

篠田カメラマンはひょいと軽快に俗性を超えていきます。他人にも世間にも全く動じないカメラマン魂の人です。まあ、迷いなく、いいものはいいとカメラを回していきます。
そこにあるのは神の目線というか、鳥の目線というか、世界を俯瞰して、微動だに感情の揺らぎ(迷い)がない目線なのです。

言うなれなば、人間なんて欲と迷いの産物であり、つまらないことに気を使い、余計な気を回し、周囲を忖度する。そこに属性という厄介なものが付着してきます。いわば人間の自我の垢みたいなものがね。

ところが、篠田先生は、そんなものを一切排除して映像を撮っていくのです。

一直線に対象へと向い、ほぼ残酷にカメラを回していきます、容赦なくね。

しかし、それは先生が、美しいと思い、感じる感性にのっとっているゆえにできあがった映像が美しいのです。

そしてそこにこそ、映像の原点と原理があると私は考えています。だから徹底的にカメラの目を追えば、そこには美しいものが現れるはずなのです。

この映画のチームが、いつもそういう純粋性を保てたことが,映像の中でのある種の澄んだ空気間として現れていると思います。

そしてできあがった映像に、どんな音楽をつけるか、が次の大きな課題でした。

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